なぜサッカー選手や野球選手の50m走タイムは5秒台が多いのか
よく思うことなのだが、サッカー選手と野球選手の申告する50m走のタイムが速すぎると思う。具体的に50m走のタイムが速いと呼ばれている人達を列挙してみると、以下のようになる。
野球選手50mランキング
千葉・早川 5秒3
=====世界記録 5秒49=====
福岡・多村 5秒6
楽天・森谷 5秒65
広島・赤松 5秒67
西武・柴田 5秒7
巨人・脇谷 5秒7
巨人・大累 5秒7
阪神・鳥谷 5秒75
=====日本記録 5秒75=====
阪神・赤星 5秒79
広島・東出 5秒8
サッカー選手50mランキング
宮市 亮 5秒7
松本 憲 5秒7
池端 陽介 5秒7
木原 正和 5秒7
杉本 恵太 5秒7
坪井 慶介 5秒7
=====日本記録 5秒75======
永井 謙佑 5秒8
松橋 章太 5秒8
長友 佑都 5秒9
古部 健太 5秒9
本田圭介 6秒3
この中にも実際に50m走が速い人は少なからずいるだろう。しかしながら、すべての選手のタイムを信用していいのかというと、そうではない。明らかにタイムが速すぎる人物がいる。なぜなら、日本記録よりも早いタイムを出しているのだから。別に、この記事は特定の人物を攻撃しようとしているわけではない。こういった明らかに不自然な50m走のタイムがスポーツ界でまかり通っていることに疑問を呈したいのだ。
この野球選手とサッカー選手の50m走のタイムに関して、別に少しくらい嘘をついていて、タイムを盛って申告していても、構わないではないかという人がいるかもしれない。しかし、この件に関しては、明確に誇りを傷つけられる人たちがいる。
それは陸上選手だ。
陸上選手は自分の持つタイムというものに対して、絶対の自信と誇りを持っている。
必死に努力し、血の滲むようなトレーニングを積み重ねて出した自分自身のタイム。それを何も知らない人たちが野球選手やサッカー選手たちの50m走のタイムを見て、トップの陸上選手よりも野球選手やサッカー選手のほうが速いと思われてしまうことが残念でならない。
簡単に野球やサッカー選手の運動能力の方がポテンシャルが高いと思われてしまうのがかわいそうである。
ではなぜ、明らかにサッカー選手や野球選手の50m走のタイムはこんなにも速いのか。
それはタイムを手動で計測しているからである。
陸上競技では、タイムを計測する際には電動による計測が用いられている。
電動計測はスターターが雷管(パンと音がなるやつ)を鳴らすと同時に計測を開始し、ゴールする際にセンサを用いて、自分の胸がゴールラインにかかった瞬間までをタイムとする。また、大きな大会では、雷管が鳴ってからのリアクションタイムも計測し、リアクションタイムが0.100以下の場合にフライングとする。
つまり、電動計測はタイムの計測に関して人間が関わっておらず、すべて自動的かつ機械的に計測されている。だからこそ、電動計測は世界的に標準化されていて、公認のタイムとすることができる。
対して、一般的なスポーツテストで測る50m走は、手動で行われる。
おそらく、50m離れた位置にストップウォッチを持った人が準備していて、スターターが雷管を鳴らす、「よーい ドン」と叫ぶ、もしくは旗を振り下ろしたのを確認してストップウォッチを押すという方式をとる。そして、走っている人がゴールする際にまたストップウォッチを押して計測を終了するといものだろう。
手動計測は人間が計測しているゆえに、誤差が入る要因があまりにも多すぎる。
50m走のタイムを手動と電動で計測した場合、電動で計測した場合と比べ、以下の5点の違いがあると思われる。
①スタートのタイミング
②人間の反応速度
③フライング
④ゴールのタイミング
⑤複数回の計測
それぞれについて述べてみたい。
①スタートのタイミング
手動計測でスタートする際に発生する誤差について考えてみる。
タイムを測る人は50m離れた位置から雷管が鳴ったのを聞いてから、ストップウォッチを押したとする。
すると、音速は空気中で約340m/sなので50m先にいる人が雷管の音を聞くのは、
50÷340=0.147秒後のことになる。0.147秒遅れてストップウォッチを押す分、測った50mのタイムは電動計測よりも早くなってしまうはずである。
②人間の反応速度
一般的に人間の反応速度の平均は0.20秒、限界で0.10秒といわれている。
50m離れた位置で雷管の音を聞いてから、その人が雷管の音に反応してストップウォッチを押すまでに0.10秒近く遅れることになる。
別のパターンとして、旗を振り下ろすまたは、旗を振り上げてスタートの合図を出した場合、旗が振り下ろされたのを確認するまで、やはり0.10秒遅れてストップウォッチを押すことになる。
しかし、一般的に「よ~い」という準備の掛け声を言うので、それに合わせてストップウォッチを押せば、そこまで反応が遅れることはないかもしれない。
③フライング
これは状況の推測であるが、スポーツテスト等の50m走では、よほど早くスタートを切ってしまった場合ではない限り、おそらくフライングをとらない。
例えば、「よ~い ドン」のタイミングをうまく計って、「ドン」と同時にスタートを切ったとしても、スポーツテスト等のタイム計測ではフライングをとらないだろう。スポーツテストでは、速いタイムを出そうとするために、こういった行為をしがちである。
しかし、音が鳴ったのと同時にスタートを切ることは陸上競技ではフライングである。電動計測では雷管が鳴ったのと同時にスタートを切ると、リアクションタイムが0.100を切ってしまうため、音を聞いてからスタートしたのではないと判断され、フライングとされる。
手動による計測では、こういった微妙なフライングは看過されている傾向にあると思う。それゆえに、少し早いタイムが計測されている。
④ゴールのタイミング
走っている人がゴールする際に、ストップウォッチをどのタイミングで止めるかは人による。
完全にゴールラインを越えたときだったり、少しでもゴールラインに触れたときなど、ゴールの判断基準が人それぞれバラバラに計測されている場合が多いだろう。
また、ゴールする際にストップウォッチを止めるのは人間なので早かったり、遅かったりして誤差が生まれる原因となりうる。
しかし、スタートのタイミングなどに比べれば、目の前でゴールする瞬間を見ることができるので、そこまで大きな誤差は生まれないであろう。
⑤複数回の計測
これまた、状況の推測になってしまうのだが、スポーツテストでは50m走は複数回にわたって計測することが多い。
一般的には、50m走のタイムを複数回測ったときには、一番良かったときのタイムを採ると思う。
しかし、今までに述べてきたように、手動計測のタイムは誤差の要因が数多く含まれている。
何が言いたいのかというと、一番良かったタイムが、本当にその人がその時速かったためなのか、測定誤差の影響なのか判断できないのが問題だ。
実際のタイムよりも、たまたま速くなってしまったタイムが、その人のベストタイムにされてしまう場合がある。
なので複数回にわたって計測した際は、一番良かったタイムを採るよりも、平均タイムを算出するほうが自分の適性のタイムになると思われる。
まとめ
一般的に手動のタイム計測は100m走で電動計測で0.24秒早くなると言われています。
サッカー選手や野球選手などの申告する50m走のタイムは手動の場合が多いので、簡単には陸上選手などと比較できないというのが現状です。
あくまでも手動の記録である場合には、参考程度にしたほうがいいということです。
マラソン選手は100mを平均何秒ペースで走るのか -世界記録からみる陸上競技-
9月9日に桐生選手が100m走で9.98の日本記録を出しましたね!
桐生選手が高校3年生で10.01を出してから、
自己ベストの更新に4年かかったそうな。
私も中学、高校と陸上競技をしていたので、その気持ちはよくわかります。
自己ベストを出すのがどれだけ難しいことか。
常に自分と戦っているようなプレッシャーありますよね。
最近よく思うことなのですが、
テレビなどのメディアの人は100m走に注目しすぎだと思います。
確かに、一番派手でタイム的に速い競技なので魅力があるのは確かです。
でも、他にも魅力がある競技はたくさん存在します。
リオオリンピックでは400m走で、
バンニーキルクという人が世界新記録を出していたのに、
テレビではボルトの話題ばかりに触れていました。
世界新記録が更新されているのに、そのことの取り上げないメディアには嫌気がさしました。
私は100m走以外の競技の素晴らしさをわかってもらいたいのです!
特に中長距離種目!
中長距離種目の人の体力ははっきりいって尋常じゃない。
怪物たちの世界です。その凄さをお伝えしたい。
どうすれば凄さを伝えやすいか考えた結果、
男子陸上世界記録において
100mどのくらいのペースで走ってるのか、
換算してみるのがよいと考えました。
男子陸上世界記録の100m換算ペース
まずは、主要な競技の男子世界記録からご覧ください。
競技名 | 記録 | 100m換算 | 名前 | 国籍 | 日付 | 場所 |
100m | 9.58 | 9.58 | U.ボルト | ジャマイカ | 2009.8.16 | ベルリン |
200m | 19.19 | 9.60 | U.ボルト | ジャマイカ | 2009.8.20 | ベルリン |
400m | 43.03 | 10.76 | W.ファン・ニーケアク | 南アフリカ | 2016.8.14 | リオデジャネイロ |
800m | 1.40.91 | 12.61 | D.ルディシャ | ケニア | 2012.8. 9 | ロンドン |
1500m | 3.26.00 | 13.73 | H.エル・ゲルージ | モロッコ | 1998.7.14 | ローマ |
3000m | 7.20.67 | 14.69 | ダニエル・コーメン | ケニア | 1996.9.1 | リエーティ |
5000m | 12.37.35 | 15.15 | K.ベケレ | エチオピア | 2004.5.31 | ヘンゲロ |
10000m | 26.17.53 | 15.78 | K.ベケレ | エチオピア | 2005.8.26 | ブリュッセル |
ハーフマラソン | 58.23. | 16.60 | ゼルセナイ・タデッセ | エリトリア | 2010.3.21 | リスボン |
マラソン | 2.02.57. | 17.48 | デニス・キプルト・キメット | ケニア | 2014.9.28 | ベルリン |
ちなみに日本の男子高校生の100m走の平均は、14.00くらいらしいです。(正確なデータかはわからない)
表の太字の部分が、各競技を100mあたりのタイムに換算したものです。
特に着目すべきは800、1500m走の100mあたりのペースは14.00を切っています。
男子高校生の平均が14.00らしいなので、
つまり、この人たちは
私たちが100m全力で走っても追いつかないのに、
さらにその何倍もの距離を走れるわけです!!
恐ろしいでしょう!!!
マラソンの100mペース
もう少し深く、考察してみましょう。
これは競技距離と100m換算ペースの関係です。
この曲線美しくないですか。
それぞれの競技について解説していきますね。
100m走と200m走は、100mあたり9.58と9.60なのでさほど100mあたりのタイムは変わらないようですね。
400m走はぐっと落ちて100mあたり10.76です。400mを全力で走りきることはできません。それでも恐ろしいですが。
800m走の100mあたりのタイムは12.61ですね。800m走からが中長距離と言われる競技になり、400m走と比べるとスピード感は落ちてきます。
ここからグラフの曲線の傾きが緩やかになっていきます。
ちなみに1500m走の100mあたりのタイムは13.73なので、
まだ男子高校生の100m全力平均タイムより早いです(笑)
5000mから10000mと距離は2倍になっているのに、
100mあたりのタイムは15.15と15.78なので1秒も変わりません。
凄くないですか。距離は2
ハーフマラソンからマラソンに至っては、21kmから42kmに伸びているのに
これまた100mあたりのタイムは1秒ほどしか変わらない。
よくわかんないでしょ。なんでそんなペースで走れるん?
人間の神秘だと思いませんか。
要するに中長距離選手の凄みは、
競技距離が長くなるのに対して、
100mあたりのタイムがあまり落ちないことなんです。
逆に言えば、400mから5000mくらいまでの競技は
スピードと持久力のバランスが求められる面白い競技なんですよ!
ってことを伝えたい。
陸上競技は人間の身体能力の限界に挑む、まさに究極のスポーツ。
是非、100m走以外の競技にも興味を持ってもらいたいと思います。
参考記録
ちなみに、測定されることの少ない世界記録もグラフにのっけてみました。
やはり、オリンピック種目にない測定する機会の少ないような種目は、
グラフの曲線上から大きく上にはずれています。
もし世界記録を狙っている人がいるなら、
(猫ひろしさんとか)、
トラックで行う25000mなんて世界記録を出せそうな競技だと思いますよ!
以上、世界記録を100mあたりのペースで換算してみたでした。
機会があれば女子バージョンもつくってみます。